私がフィリピンへの本格移住を検討し始めた35歳の秋、真っ先に突き当たったのが「出国税」という言葉でした。正式名称は国外転出時課税。2015年に導入されたこの制度は、一定の資産を持って日本を離れる人に対し、含み益に課税するものです。AFP・宅建士として資産全体を俯瞰してきた私でも、初めて向き合った時は制度の複雑さに正直戸惑いました。この記事では、私自身が調べ尽くした7つの課税対象資産と、2026年時点での準備手順を具体的にお伝えします。
出国税の基本と1億円基準を正確に理解する
国外転出時課税が生まれた背景と制度の骨格
出国税、すなわち国外転出時課税は、所得税法第60条の2以下に規定されています。簡単に言うと、日本居住者が国外転出(海外移住)をする際、その時点で保有する一定の有価証券等に含み益があれば、実際に売却していなくても「みなし譲渡」として所得税・復興特別所得税が課される制度です。
導入の背景には、富裕層が資産を保有したまま日本を離れ、低税率国で売却して課税を逃れるケースへの対処があります。実際、2015年以前は法的な「抜け穴」として利用されていた手法であり、OECD諸国の動向に合わせる形で日本でも整備されました。
この制度が適用されるかどうかを判断する入り口となるのが「1億円基準」です。国外転出時点での対象資産の時価合計が1億円以上の場合に課税対象となります。ただし、1億円という数字は「課税されるかどうか」の基準であり、課税額そのものではない点を最初に押さえておく必要があります。
1億円基準の計算に含まれる資産・含まれない資産
1億円の計算対象となる資産は、所得税法上の「有価証券等」に限定されます。不動産や現預金はこの1億円の計算には含まれません。私がフィリピンとハワイの不動産を保有していますが、それらは出国税の課税対象の1億円判定には直接影響しない点は、最初に確認した重要な事実です。
一方で、株式・投資信託・公社債・匿名組合契約の出資持分・未決済デリバティブ取引などは計算に含まれます。東証に上場している株式はもちろん、外国法人の株式も対象です。保険の積立部分や持ち株会で積み立てた株式も含まれるため、サラリーマン出身者には意外な落とし穴となるケースがあります。
なお、1億円の判定は「出国日」の時価で行います。直前の株価急騰・急落が判定結果を左右するため、出国のタイミングを慎重に検討する実務的な意味も生まれます。この点の税務判断は必ず税理士に確認することを強く推奨します。
私が直面した試算の壁と資産棚卸しの実体験
AFP視点で自分の資産を全棚卸しした時に気づいたこと
私がフィリピン移住を本格検討した際、まず自分の資産を一覧化しました。AFP(日本FP協会認定)の資格を持つ私でも、自分の資産を「出国税の視点」で整理し直す作業は新鮮な体験でした。日頃、顧客の資産設計を行う立場でも、自分のことになると見落としが出るものです。
私が保有していた資産の中で特に確認が必要だったのは、①国内証券口座の株式・ETF、②iDeCoの運用資産、③外国株式口座(海外証券口座)の残高、④法人への出資持分、の4つでした。iDeCoは一定条件のもとで対象外となる場合がありますが、確定拠出年金の取り扱いは制度によって異なるため、これも税理士への確認事項に加えました。
特に法人の出資持分(自社株)については、非上場株式であっても出国税の対象になり得ます。私は東京都内で法人を経営しているため、その株式の評価額をどう計算するか、という問題が浮上しました。非上場株式の評価は財産評価基本通達に基づく計算が必要で、単純に帳簿価額を見ればよいわけではありません。
税理士との初回面談で「1億円基準」の試算を依頼した経緯
資産の棚卸しを終えた私は、顧問税理士に「国外転出時課税の試算をしたい」と相談しました。顧問契約を結んでいる税理士事務所への相談は、追加費用が発生するケースと、顧問契約の範囲内で対応してもらえるケースがあります。私の場合は個別相談として別途見積もりが来て、スポット相談料として数万円単位の費用が発生しました。
税理士への依頼で改めて実感したのは、「FPと税理士では見る角度が異なる」という点です。FPである私は資産全体の流れやライフプランを設計するのが得意分野です。一方、具体的な税額計算・申告実務・税法解釈は税理士の独占業務です。移住前の出国税対策は、FP的な資産設計の視点と、税理士による税法判断の両方が必要になります。
試算の結果、私の場合は証券口座の残高と法人株式の評価額を合算しても1億円の基準には届かないことが確認できました。ただし、将来的に法人の企業価値が上がれば状況は変わります。「今は大丈夫でも、移住時期によっては課税対象になる可能性がある」という認識を持つことが重要です。最終的な判断は必ず担当税理士または所轄税務署にご確認ください。
課税対象となる7つの資産区分を整理する
有価証券等7区分の具体的な内容
所得税法の規定をもとに、国外転出時課税の対象となる資産区分を整理します。以下の7区分が代表的な対象資産です。
- ① 上場株式・ETF・REIT(国内・外国問わず)
- ② 投資信託の受益権(公募・私募)
- ③ 公社債(国債・社債・外国債券)
- ④ 非上場株式(自社株を含む)
- ⑤ 匿名組合契約等の出資持分
- ⑥ 未決済の信用取引・デリバティブ取引
- ⑦ 特定口座以外で保有する外国の有価証券
各区分の「時価」の算定方法は資産ごとに異なります。上場株式は出国日の終値ですが、非上場株式は財産評価基本通達による評価が必要です。外国株式は出国日のレートで円換算した金額が基準となります。
注意すべきは、これらの資産の「含み益」に課税されるという点です。取得価格より時価が低い場合(含み損)は課税されません。ただし、複数資産をまたいで損益通算できるかどうかは申告方法によって異なるため、この点も税理士に確認するべき事項です。出国税2026実体験|35歳移住計画で調べた7つの課税要件と対策軸
不動産・現預金が直接の対象外となる理由と間接的リスク
フィリピンとハワイに実物不動産を保有する私にとって、「不動産は出国税の直接対象外」という確認は移住計画の重要な前提でした。所得税法上の出国税は「有価証券等」に限定されており、不動産そのものは1億円判定の計算に入りません。
ただし、間接的なリスクは存在します。たとえば、不動産を保有する法人の株式を持っている場合、その法人株式の評価額に不動産価値が反映されます。私が保有する法人でも、フィリピン・ハワイの不動産投資が法人の純資産を増やせば、非上場株式の評価額が上昇し、出国税の1億円基準に近づく可能性があります。
また、現預金そのものは対象外ですが、外国通貨建て預金の場合は「為替差益」が別途課税対象となるケースがあります。海外口座での運用経験がある私は、この点でも顧問税理士への確認を実施しました。現預金と有価証券の境界線は見た目よりも複雑です。
納税猶予制度と出前前に進めるべき5つの準備
納税猶予制度の活用条件と担保提供の実務
出国税には「納税猶予制度」が設けられています。課税対象となった場合でも、一定条件を満たせば実際の納税を後ろ倒しにできる制度です。活用できる主なケースとして、①一時的な出国(5年以内に帰国見込みがある)、②資産を国内の親族等に贈与・相続する場合、③出国後に実際に有価証券を売却した時点で精算する方法、などがあります。
納税猶予を受けるには、担保の提供と期限内申告が必要です。担保となる資産は有価証券・不動産・保証書などが認められますが、担保の設定には手続きコストがかかります。また、猶予期間中は毎年「継続適用届出書」を提出する義務があり、失念すると猶予が取り消されて一括納税を求められるリスクがあります。この手続きは確実に税理士または所轄税務署に確認しながら進めてください。国外転出時課税とは実体験|35歳移住計画で調べた7つの基本要点
出国前に着手すべき5つの具体的な準備手順
私が顧問税理士との打ち合わせや自身の調査を通じてまとめた、出国前の準備手順は以下の5点です。
- ① 資産の全棚卸し:証券口座・保険・法人持分・外国口座を一覧化する
- ② 1億円基準の試算依頼:税理士に現時点の時価ベースで試算を依頼する
- ③ 出国日の検討:株価・為替の動向も踏まえ、課税基準日となる出国日を逆算する
- ④ 住民票の異動と出国届の準備:住民票の転出手続きは出国税の起点となるため早期確認が必要
- ⑤ 納税猶予の要否判断:帰国予定がある場合は猶予の選択肢を税理士と検討する
特に②の試算は、移住の1年以上前から着手することを推奨します。非上場株式の評価は時間がかかる場合があり、直前に慌てると資料収集が間に合わないケースもあります。私は実際に試算依頼から結果が出るまで約3週間かかりました。余裕を持ったスケジュール設定が重要です。
まとめ:出国税対策で後悔しないための行動チェックリスト
7つの資産区分と1億円基準の要点を振り返る
- 出国税(国外転出時課税)は所得税法に基づき、海外移住時点の有価証券等の含み益に課税される制度
- 1億円基準はあくまで「課税適用の判定基準」であり、不動産・現預金は直接の計算対象外
- 課税対象は①上場株式・ETF、②投資信託、③公社債、④非上場株式、⑤匿名組合出資、⑥未決済デリバティブ、⑦外国有価証券の7区分
- 法人の自社株は非上場株式として対象になり得る。不動産保有法人の株式は間接的に評価額が高くなるリスクがある
- 納税猶予制度は要件が厳格で、毎年の継続届出が必要。税理士のサポートなしに運用するのは難易度が高い
- 出国日が課税の起点となるため、株価・為替・住民票の異動タイミングを総合的に検討する必要がある
- 税額計算・申告・猶予手続きはすべて税理士または所轄税務署への確認が前提となる
海外移住を本気で考えるなら、専門家への相談を後回しにしない
AFP・宅建士として資産全体を見てきた私が強調したいのは、「出国税は情報収集だけで完結しない」という点です。制度の概要をつかむことと、自分の具体的な税額を把握することは全く別の話です。特に法人を持つ方、自社株評価が高い経営者、外国株式を積み上げてきた方は、出国の2年前から税理士との継続的な相談体制を整えておくべきです。
私自身、移住計画を本格化させる中で、海外での資産管理・現地不動産の取得・海外金融機関でのリソース活用といった実務経験が、税理士との会話の質を大きく上げてくれました。「何を質問すべきか」が分かっていると、専門家との面談が格段に効率化されます。
まず自分の資産状況を棚卸しし、信頼できる税理士に相談することが出国税対策の第一歩です。移住後に「知らなかった」では取り返しがつかない場面もあります。海外移住の税務サポートに強い専門家を探したい方は、以下のサービスも参考にしてください。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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