AFP・宅地建物取引士として10年近く資産管理の実務に関わってきた私が、35歳での海外移住を想定して国外転出時課税のシミュレーションを実際に行いました。「出国税なんて自分には関係ない」と思っていたのが、試算を始めると想定外の数字が次々と浮かんできました。この記事では計算手順・試算結果・落とし穴の7項目を具体的に公開します。
国外転出時課税の基本と1億円基準の仕組み
出国税とは何か:所得税法の根拠と対象者
国外転出時課税(いわゆる出国税)は、2015年の所得税法改正で創設された制度です。正式には所得税法第60条の2に規定されており、一定の資産を保有したまま日本から出国する居住者に対して、その時点での含み益を「実現したとみなして」課税する仕組みです。
対象になるのは、出国日時点で次の条件をどちらも満たす人です。第一に、有価証券・匿名組合員の出資持分・未決済デリバティブ取引などの対象資産の時価合計が1億円以上であること。第二に、出国前10年以内において、国内に5年超住所または居所を有していたことです。
注意すべきは、この「1億円」は取得価額ではなく出国日時点の時価で判定する点です。含み損がある銘柄と含み益がある銘柄を合算して純額で見るのではなく、対象資産の「時価合計」で判定します。したがって、個別銘柄に含み損があっても、全体の時価合計が1億円を超えれば課税対象になります。
対象資産の範囲:株式・投資信託・新株予約権など
対象資産の範囲は意外に広いです。上場株式・非上場株式・投資信託の受益権・国債・社債・新株予約権・匿名組合員の出資持分などが含まれます。一方、預貯金・外貨預金・不動産・生命保険の解約返戻金は対象外です。
私が試算で最初につまずいたのがここでした。フィリピンとハワイに実物不動産を保有していますが、これらは国外転出時課税の対象資産には含まれません。同様に、日本国内の不動産も対象外です。純粋に金融資産の有価証券等が対象になると理解して、改めて自分のポートフォリオを整理し直す必要がありました。
私が35歳移住を想定して行った試算の全体像
試算の前提条件:保有資産の洗い出し作業
私は現在、東京都内で法人を経営しながら資産形成を進めています。2031年に35歳での海外移住を目標として、2024年時点で国外転出時課税シミュレーションを一度本格的に実施しました。試算はあくまで個人の学習・準備目的であり、税務申告の代わりになるものではありません。実際の申告は担当税理士に依頼する前提で行いました。
試算の前提として設定した保有資産は以下のとおりです。国内上場株式の時価1,800万円(取得価額980万円、含み益820万円)、投資信託の時価2,200万円(取得価額1,400万円、含み益800万円)、米国ETFの時価3,500万円(取得価額1,900万円、含み益1,600万円)、非上場株式(法人の株式)の時価2,800万円(取得価額300万円、含み益2,500万円)、新株予約権ゼロ、という構成です。合計時価は1億300万円となり、1億円基準をわずかに超えます。
試算で実感した「法人株式の含み益」の重さ
この試算を実際に行ってみて、非上場株式の評価が想像以上に難しいと実感しました。法人の株価は純資産価額方式や類似業種比準方式などで評価されますが、国外転出時課税の場面では「出国日時点の価額」として相続税評価額に準じた評価を行う必要があります。
私の場合、法人内の不動産含み益が法人株式の評価額を押し上げており、非上場株式の「時価2,800万円」という数字は、実際に計算してみると想定より高くなりました。非上場株式の時価評価は一般の方が自力で行うのは難しく、この点だけでも税理士への相談が欠かせないと痛感しています。個別のケースによって評価方法が異なるため、担当税理士または所轄税務署への確認を強くお勧めします。
含み益課税の計算手順と7項目の試算結果
基本的な税額計算:税率と課税所得の求め方
国外転出時課税の税率は、上場株式等の譲渡所得と同じく原則20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)です。ただし、非上場株式の場合は総合課税となるケースもあり、税率が異なる点に注意が必要です。以下の試算はあくまで概算であり、実際の税額は個別の事情によって大きく異なります。
私が試算した7項目の結果を順に示します。①上場株式の含み益820万円×20.315%=約166万円。②投資信託の含み益800万円×20.315%=約162万円。③米国ETFの含み益1,600万円×20.315%=約325万円。④非上場株式の含み益2,500万円(概算)は総合課税での試算が必要なため、税理士への確認後に改めて計算する予定。⑤住民税の申告タイミングとの調整。⑥為替差益の取扱い確認。⑦国外転出時の損益通算可否の確認、です。
項目④〜⑦で見えてきた試算の限界
①〜③の合計だけでも概算税額は約653万円に上ります。これに非上場株式の含み益課税が加わる可能性を考えると、出国前に数百万円から場合によっては1,000万円超の税負担が発生し得ると実感しました。
⑤の住民税については、国外転出時課税は「出国日の属する年分の所得税」として申告しますが、住民税は前年所得をベースに翌年課税されるため、申告タイミングの調整が必要です。⑥の為替差益は、外貨建て資産の評価において取得時と出国時の為替レート差が含み益計算に影響します。⑦の損益通算については、同一年内の他の株式譲渡損との通算が可能な場合とそうでない場合があるため、これも税理士に確認が必要な項目です。出国税2026実体験|35歳移住計画で調べた7つの課税要件と対策軸
納税猶予制度の活用試算と注意点
納税猶予を使う条件と担保提供の現実
国外転出時課税には納税猶予制度が設けられています。出国後も引き続き対象資産を保有する場合、一定の要件を満たせば出国から5年間(延長申請をすれば最長10年間)、税の納付を猶予できます。この制度を使うためには、出国前に税務署に申請し、猶予税額に相当する担保を提供する必要があります。
担保として認められるのは、国債・地方債・上場有価証券・不動産などです。私の試算では概算税額が600万円超になるため、それに相当する担保資産を確保しておく必要があります。保有する米国ETFを担保に使えるかどうかは外国資産の担保適格性の問題があり、これも税理士に確認する事項の一つです。
帰国・資産売却があった場合の猶予取消リスク
納税猶予は「資産を売却した時点」で猶予が取り消されます。猶予期間中に対象資産を売却した場合、売却分に対応する猶予税額を利子税とともに納付しなければなりません。また、猶予期間中に帰国して居住者に戻った場合、その時点の時価が出国時より下落していれば更正の請求で税額を減額できます。逆に、猶予期間終了時点まで資産を保有し続けた場合、猶予税額は免除されます。
この「5年保有すれば免除」というルールは非常に魅力的に見えますが、5年間の間に資産売却の自由が制約されることを意味します。私の試算では、米国ETFや投資信託を5年間売却できないと、リバランスや生活費への充当が難しくなるケースも想定されました。納税猶予の活用は、移住後のキャッシュフロー計画と一体で検討すべきです。出国税実体験|35歳海外移住で調べた7つの課税対象資産2026
試算で気づいた落とし穴と移住前にすべき準備
シミュレーションで発見した7つの落とし穴まとめ
- 非上場株式の時価評価は自力計算が難しく、税理士への依頼が前提になる
- 1億円判定は「純額(含み益)」ではなく「時価合計」で行われるため、含み損銘柄があっても対象になる場合がある
- 外国資産(米国ETFなど)の含み益には為替レートの変動が影響し、試算のたびに金額が変わる
- 納税猶予の担保として外国有価証券が使えるかは個別確認が必要
- 猶予期間中の資産売却は部分的に猶予取消となり、利子税が発生する
- 住民税の課税タイミングと所得税申告のズレを事前に把握しておく必要がある
- 出国後に資産価値が下落した場合の更正の請求手続きを、出国前に把握しておかないと期限を逃すリスクがある
移住前にすべき5つの準備と税理士活用のすすめ
国外転出時課税のシミュレーションを実際に行ってみて、「出国の1〜2年前から準備を始めるべきだ」と強く感じました。以下の5つを出国前の必須チェックリストとして押さえてください。
第一に、保有資産の時価合計を毎年棚卸しすることです。1億円基準は出国日時点の時価で判定されるため、移住の数年前から年1回は試算を更新する習慣が必要です。第二に、非上場株式がある場合は相続税評価額に準じた株価算定を税理士に依頼することです。第三に、納税猶予を利用するかどうかを出国前に決め、担保資産の準備を進めることです。
第四に、国外転出時課税に詳しい税理士を早めに探して相談することです。一般的な個人の所得税申告を専門とする税理士でも、この分野の経験は限られているケースがあります。私が自分の担当税理士に最初に問い合わせた際も、「専門の税理士を紹介します」という回答でした。顧問料の相場感として、国外転出時課税の申告補助単体では20〜50万円程度(資産規模・複雑度による)を目安に見ておくと現実的です。ただし費用は税理士事務所によって大きく異なるため、複数の事務所に見積もりを取ることをお勧めします。
第五に、移住後の資産管理・キャッシュフロー計画を納税猶予の有無と連動して組み直すことです。海外金融機関での口座開設や資産移転のタイミングも、国外転出時課税の申告スケジュールと整合させる必要があります。個別の事情により最適な対応は異なるため、最終判断は必ず税理士または所轄税務署に確認してください。
海外移住前の税務準備に精通した専門家への相談窓口として、以下のサービスも参考にしてみてください。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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